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テーマ:人材投資と生産性


生産性白書小委員会委員で、学習院大学教授の滝澤美帆氏が、生産性白書第2部第2章の「人材投資と生産性」に関して解説します。企業レベルデータを用いた分析として、ICTの導入や活用に伴い、社内研修を実施している企業の生産性は実施していない企業よりも高く、ICTの活用とともにICT専門人材の採用を行っている企業も、そうではない企業よりも生産性が高いことを示し、デジタル化へ向けた人材投資の重要性を指摘しています。



デジタル化と連動
中小企業の現状、注視を

        

 生産性白書小委員会委員/
 学習院大学教授             滝澤 美帆 氏 

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国の経済成長を描写する際に用いられる分析手法として「成長会計」がある。この分析フレームは、一国に関する経済成長の度合いを、代表的な生産手段である労働と資本の寄与度と生産性上昇の寄与度に分解するものである。一定期間における経済成長が、「労働の成長」「資本の成長」「生産性の向上」のおのおのによって、どの程度ドライブされていたかを計測することができる。

  

 日本は少子高齢化により、労働の直接的な寄与度が低下しています。また、高齢化に伴う貯蓄率の低下が資本蓄積を抑制する可能性もあり、資本の成長の寄与度も低下しています。イノベーションの創発に欠かせない若年層の減少が生産性の停滞を引き起こし、生産性向上の寄与度の低下を招く可能性もあります。
 労働者のスキル向上などを通じて、労働投入の質を向上させ、労働者一人ひとりが生み出す価値を引き上げることがますます重要になります。人材への投資が生産性を大きく向上させることは先行研究でも指摘されています。しかし、近年の日本における企業の教育訓練投資は減少傾向にあるのが実情です。
 人口減少が進む中で、経済成長をもたらすための数少ないチャネルとして、人的資本の蓄積が重要になります。加えて、AIやIoTなどに代表されるいわゆるデジタル化の進展は、特に質の高い労働者に対する需要を高めています。
 つまり、既存の技術に対応した教育訓練が重要であるだけでなく、新しい技術に対する深い理解のもとで、ICT投資の成果を十分に引き出すことができる人材を育成するための投資がこれまで以上に必要となります。こうした人材投資は新たなビジネスモデルを生み出し、経営人材の育成という観点からも重要です。

    

経済産業研究所が提供している日本産業生産性データベース(JIPデータベース)のデータを利用して、無形資産投資データを延長推計することで、無形資産投資の一部である人材育成投資の推移を把握した。さらに、この延長推計の結果をEU諸国および米国における無形資産投資データを整備したINTAN-Investのデータと比較し、日本における人材投資の水準を国際比較の観点から実証的に把握した。

  

 この結果、分かったのは、日本の人材投資は1991年をピークに減少していることです。また、製造業に比べて、サービス業を含む非製造業の投資額の減少幅が大きく、2015年の値はピーク時の58%程度になっています。非製造業に比して減少率が相対的に小さい製造業においても、2015年時点における投資水準は過去のピーク水準から見て低い水準にとどまっています。
 GDPに占める人材投資の割合を国際比較すると、日本における人材投資がGDPに占める割合は1995年から2004年平均で0.42%、2005年から2015年平均で0.37%にとどまっており、諸外国と比べて、GDPに占める人材投資の比率が顕著に低くなっています。
 近年にかけて、人的投資の割合が減少している点も注目すべきです。データの制約から、概念やカバレッジが異なることに注意が必要ですが、アメリカでは、1.8%、最も高いドイツでは2.1%程度で、日本の5~6倍程度の水準です。

図1 人材投資/GDPの国際比較

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(出所)日本:JIP2018より計算、欧米:INTAN-Invest

 日本の人材投資が少ない理由は、バブル経済崩壊後の不良債権問題の先送りにより、適切な資源配分が行われなかったことや、1990年代後半の金融危機により、無形資産投資を削らなければならなかったことなどが指摘されています。
また、2008年のリーマン・ショック後の世界同時金融危機により、担保になりにくい無形資産投資は資金調達に適さず、増加しなかったことなどや、景気低迷を背景に雇用の非正規化が進んだことも理由として考えられています。

    
JIPデータベースにおける人材投資には、重要な人材投資の一種であるオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)が含まれていない。2018年2月に実施された内閣府の「働き方・教育訓練等に関する企業の意識調査」におけるOJTの総労働時間に占める割合を用いて、産業別のOJT投資額を推計した。

  

 2015年については、マクロ付加価値に占める割合はオフ・ザ・ジョブ・トレーニング(OffーJT)で0.33%、OJTで3.76%とOJTがOffーJTの11倍程度となっています。

図2 2015年のOJTとOff-JT投資(付加価値に対する比率)

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(出所)Off-JT:JIP2018より計算、OJT:内閣府「働き方・教育訓練等に関する企業の意識調査」とJIP2018より計算

 OJTは、仕事を効率よく行う術を学ぶのに適している一方で、新しい技術やビジネスモデルを学ぶ目的には適していません。OffーJTは、特にサービス業で生産性を向上させる度合いが強いと言われています。
 労働生産性が高い企業においても、人的資本投資を行うことで、生産性が高まる効果があるとの報告もあります。また、従業員が自己啓発を行っている企業においては、この生産性が上昇する効果がより高くなる可能性を示し、企業内訓練と企業外での自己啓発の双方の活用により、人材育成を行っていくことが重要であると指摘されています。
 産業別に推計したOffーJTやOJTデータと産業別の労働生産性データを用いて、それらの相関関係を調べましたが、統計的に有意な相関関係は得られませんでした。この結果は、人材投資が業務を円滑に進めるためのベースとなる投資と位置付けられる一方で、人材投資と生産性のマクロレベルの相関が必ずしも強くないことを意味しています。

    
企業内での人材投資と生産性については、「生産性向上につながるITと人材に関する調査」の企業レベルの回答データを用いて、ICT活用に伴う人材投資などの取り組みの具体的な中身やICTに関する教育研修の時間などの現状を整理し、人材投資と生産性の関係を分析している。

  

 ICTに伴い、どのような人材投資を行っているかを調査したアンケートでは、54%の企業が社内研修を充実させる試みを進めていると回答しています。
 また、ICT人材の中途採用を行っている企業も39%程度存在しています。さらに、CIOやICT担当役員配置がある企業では、ICT活用とともに行う人材投資の割合が高い傾向にあることもわかります。
 人材投資で「従業員の社内研修の充実」と回答した企業の年間平均研修時間は、全体の75%の企業は10時間未満の研修しか行っていないこともわかります。ICTの導入、活用に伴い、社内研修を実施している企業の生産性は実施していない企業より、平均値、中央値とも高く、また、ICTの活用とともにICT専門人材の採用を行っている企業も、そうではない企業の生産性より高くなっています。これらの結果は、ICT投資が生産性向上と結びつくためには、付帯的な人材投資が必要である可能性を示すものです。
 マクロの人的投資額が少ないという事実は、日本の生産性の成長を展望する上で大きな懸念です。また、アンケートの結果からは、規模が小さいほど、人的投資の実施割合が低いことも確認されています。この結果は、技術革新に伴う付帯費用を支払えず、補完的な人的資本投資を十分に実施できない中小企業における低生産性が、今後も継続する可能性を示唆しています。多くの数の中小企業を抱える日本において、中小企業における不十分な人的投資という問題は、生産性向上を狙いとした取り組みを検討する上で、特に重視すべきポイントであると言えます。

    

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「尊厳ある仕事」の確保を 
 人材育成 問われる当事者意識

        

  日本生産性本部副会長
  全国労働組合生産性会議議長
  UAゼンセン会長            松浦 昭彦 氏 

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 第四次産業革命を経て世界が大きく変わろうとしている中で、生産性白書が生産性運動三原則の今日的意義を示したことは極めて重要であり、労働組合側としても、産業構造の転換に対応するための一つの方向性が出されたと考えている。
 機械ではできない仕事や、機械に置き換わるまで時間がかかる仕事に関しては、人が行う仕事としての尊厳を確保することが重要で、生活を支えるための一定の労働条件が担保されるべきだろう。プラットフォーム型労働(ウーバーイーツのようなオンラインプラットフォームを活用した労働)をはじめとする働き方の多様化が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で増えてきている。生産性運動を進めていくうえで、雇用契約を持たない人たちにも「尊厳ある仕事」の環境を確保していく仕組みづくりが課題だ。
 生産性白書では人材育成の重要性も指摘している。これまでも、企業の競争力強化のための人材育成の重要性を指摘する政府や民間の提言は少なくない。しかし人材育成といった場合、どう進めていくかという課題に対する当事者意識が薄く、具体的な計画に落とし込む取り組みはほとんどみられない。これからは「誰が」「どのように」人材を育てていくのかが問われる。外部での教育やリカレント教育も大事だが、日本企業が行ってきたOJTやOff-JTのメリットも再評価してみることも重要だ。
 「ジョブ型雇用」の必要性が取りざたされているが、経営者によっては「使える人を使いたい」と捉えている方もいるように思う。そうではなくて、自社の従業員を「使える人」に育てていく姿勢を忘れないでもらいたい。
「自分の能力を生かせる仕事が与えられないから、転職してチャンスをつかみたい」という従業員がいるのは大いに結構だ。その一方で、「自分の仕事は陳腐化してしまった。新しい能力を身に付けたい」という従業員の要望に対し、会社が能力開発の場を用意することも引き続き重要になる。
 日本のモノづくりを支えてきたのは人材だ。工夫に工夫を重ねて、他社にはできないオンリーワンのモノづくりを実現し、競争力を高めてきた。中小企業の多くは、今でも同じ姿勢でモノづくりに取り組んでいる。そうして培ってきた日本の技術力を、どの方向にもっていけばいいのかを考えなければならない。業種によっても違うので、十把一絡げには言えないが、これまで築いてきた伝統やお家芸を捨て去ってしまうのはもったいない。デジタル化が進む中で、新しい便利なツールをみんなが使えるようになるような教育は必要だと思う。しかし、みんなが同じものを使えるようになるだけで、生産性向上の実現や技術革新が起こるとは思えない。

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